2015年5月5日火曜日

温水洗浄便座の将来


 先月初めのDie Zeit(ドイツの週刊誌)の経済欄に「大きなビジネス。何が谷潤一を動かしたのか?」という全面記事が載った。谷はウオッシュレットで有名な日本企業Totoのチーフデザイナーである。

 1964年生まれの谷が初めて枠つきでその上に座る洋式トイレに出会ったのは1971年(7歳)であり、父の転勤で新しい家に移転し取り付けられた時であった。(私自身は1959年ビザ取得で行った横浜の米国総領事館で。その時は使い方が全く分からず戸惑った)。

 谷は大学卒業後Totoに入社、日本企業の例にもれず色々な部署に回された結果、キチン設備のデザインを希望したが空きはなく、やっとトイレ部門に入り込んだ。1980年代初期にTotoはすでに新しい便器の開発を進めており、43°の角度で温水が局部を洗うウオッシュレットが出現した。部署のボスには「君たちは常に将来のトイレを目指せ!」とハッパをかけられたという。それから10数年後にTotoは、蓋が自動的に開き、乾燥装置や水圧のコントロール、腰部のマッサージまで備えた便座を世に送り出している。

 デザイナーとしての谷の目を開いたのは,頭で考える日本式作業法ではなく,身体と心で感じるイタリア人の国で数年間経験を積んだ結果であった。その成果は、見た目にも美しいデザインで現在市場を支配する「ネオレスト」の製品群である。温水洗浄便器は外見がモダンになっただけではない、紫外線ライトが菌を殺し、便器の消毒が完璧となり、臭気を完全消滅させるようになった。それに加え便器が使用者の健康分析・測定をし、その結果を医師に直接報告出来る機能が備わっている等々、全くハイテク便座にまで発展した。この辺りのことをドイツのメディアも大きく取り上げる。

 







 
 Totoのヨーロッパ進出は2008年以来のこと、市場における現状では飛躍的な売り上げは達していない。雑誌等では器具・設置費を含め30004000€台かかる、と紹介されているのでおいそれと売れないのは無理もないだろう。これだけあれば立派なジャグジーつきバスタブがつけられる。Totoのヨーロッパ本社がデュッセルドルフのライン河港地区にあることを知って先日そこへ行ってみたが、週末のことでオフィスは閉まっていた。町のバスルーム専門店へ行けばなにか傾向が分かるかと出かけたが、生憎先客が多く店員にいろいろ質問することは出来なかった。

 







 
 それで勝手に30分ほどモデルルームを見て回ったところ、あることに気づいた。数十あるモデルの8割以上に便器と並んでビデ(局部洗浄器)がついているのだ。これで、ドイツでもこの種の洗浄器の需要が大きいことが判る。肝心のToto製のネオレストはどこにもないし、その他の温水洗浄便座がモデルルームに設置されている気配もない。ほとんど諦めかけて帰り際に顧客用トイレを使った時、その店の一番奥の一角にライトもついていない一室を見つけた。スイッチを入れて見ると、あった!

 Toto製ではないが,ドイツのDuravit社のSensoWashという温水洗浄便座だ。機能パネルにはほぼ基本的な、通常洗浄、振動洗浄、婦人用洗浄、温水量制御、温度・温風・乾燥装置,便座調整等のボタンがついている。この機種の需要状況や価格範囲について係員の詳しい説明は聞けなかったが、店の一番奥、それも電気もついていない一角においてあることから,大体の様子は類推できるというものだ。

 ドイツの一般市民には温水洗浄便座はまだ良く知られていない。町でのインタビューでも「そんなものがあるのか?!」と不思議な顔で応対するが、局部洗浄のビデに使い慣れた人なら、日本のウオッシュレトを一度使えばその快適さに驚くはずだ。しかし、上のような設置費用の額を言えば即座に「私には必要ありません」と断られるであろう。

 最近日本では10万円以下の便座が良く売れているという。爆買い中国人のおみやげの人気商品はこれだ、とテレビ番組が報道していた。この町でもそんな低価格のウオッシュレットを取り付けたという日本人家庭がある(どこの製品かは不明、後日何か判れば改めて書きたい)。健康・衛生志向の強いドイツ人にも温水便座の良さを正しく知らせ、せめて1000€内外の価格提示をするならもう少し普及するかもしれない。この辺りにウオッシュレットのヨーロッパ征服の突破口があるのではないだろうか。

2 件のコメント:

  1. 三千男さん。貴君からウオッシュレットの話題が出てくるとは思いませんでした。数年前、ウオッシュレットに抵抗する貴投稿があったと覚えています。今、日本では「あって当たり前」「無いと嫌がられる」「特に女性が求める」になっています。日本で爆買いの中国の皆さんは座イスをどのように取り付けているのでしょうか。水洗トイレに座イスを置くだけ?ではないでしょうか。暖かいのがいいのかも。学生時代、東洋陶器(TOTOの前身)の会社幹部の息子S君と一緒でした(故人)。呑むと北九州にいたオヤジの自慢話でした。当時の自慢は便器陶器の品質でした。今は違って置き便座ですかね。大阪の山さん

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    1. 「ウオッシュレットに抵抗する投稿?」記憶にないので以前のものをサーチしましたが、やっぱり出てきませんでした。
      これを機会にドイツの製品も調べましたが、あるのですね!やっぱり無視することの出来ない製品・商品ではあるらしいです。我が家でも、ある専門店に問い合わせました。今のところ具体的なオファーもなく,薦められてもいませんが、我々は考慮に入れないでもありません。とにかく最近ドイツへやって来た日本人たち(特に女性です)は口々にウオッシュレットが懐かしい、とこぼしています。さて今年中にどう発展するか、予断は許されません。

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