2013年6月29日土曜日

Siebenschläfertag


 昨日(6月27日)のテレビ・ラジオの天気予報番組では“Siebenschläfer“という言葉がくり返し聞かれた。そのまま訳せば「7人の眠り人」となるが…、一体何のことだろう?

 この語は「7人の眠れる聖人」というのが正しく、次のような宗教上の言い伝えによるものである。西暦第4世紀ローマ皇帝デキウスの時代、キリスト教は激しい迫害にあっていた。その頃エペソの町(今のトルコ)に7人の若い教徒がいたが、神は彼らの信仰を良しとし、その身を守るために深い眠りにつかせ、ある洞窟内に匿った。その眠りは200年も続き、446627日になって彼らは初めて眠りから覚めた、というのである。人々はこの日を「7人の眠れる聖人の日」として守るようになった。

 それではこの伝説とドイツの天気・天候と何の関係があるのだろうか?ドイツでは「この日(627日)の天気が、その後7週間の天気を決定する」という民間の(特に農民の)言い伝えのようなものがある。すなわち、この日が快晴であるならば、8月終わり頃までの7週間の夏の天候は素晴らしいものとなるが、反対に雨ならば不快で低温の冷夏になるだろう、というわけである。7人の聖人の眠りが永く続いたことから、その記念日の天候も長く続く、という共通性を教える言い伝えだろう。しかし本当にそれが起こるのだろうか?

 Meteorologische Singularitätという難しい語があるが、これは「気象学上に見て、一定の季節に必ず現れる気象現象」を指す。そのような現象があるだろうことは想像出来る。しかし627日という特定の日の天気がその年のその後の気候を決めるというのは、そのままでは受け入れ難い。実際の所は、この日から7月初めにかけての1週間ほどの気候がそのまま夏中続く(定着する)ことが多い、というのだそうだ。この定着率はドイツでは南部によく当てはまり、統計からすると、ジェット気流(偏西風)の影響で特に南ドイツでは60−70%、ミュンヘンでは80%も同じ天候が続く、という。一方海洋性の気候に影響される北部ドイツではこの現象が起こらない。これなら素人の我々にも理解出来る。

 さて今年の627日の天気は午前中薄曇りだったが、午後から雨になった!そしてその翌日の今日も朝から雨続きで気温も低い。このままでは余り心地良い夏にはなりそうにないが、そのままずっと続くかどうかは、まだわからない。週末から天気回復そして気温も20数℃に上がるという予報なのでまだ希望が持てる。Siebenschläfertagの悪天候を挽回しなんとか太陽と高温に恵まれた快適な夏になってほしいものである。

2013年6月22日土曜日

バラの季節、6月!


          (夏の花の女王バラは6月の今が最盛期)
 ドルトムンドにある「ドイツバラ園」(Deutsches Rosarium)は、70ヘクタールという広大なヴェストファーレン公園の中に「バラの道」として組み込まれ、この国でも3指に入る大規模な園である。我が家から車で1時間足らず、以前は初夏になると毎年のように出かけていたのだが、最近はとんとご無沙汰が続いた。快晴高温の続く今年の夏は是非にと、数年ぶり夫婦揃って出かけた。オランダの春のチューリップと並び、1年の内の「お花見」の楽しみとして夏の花の女王であるバラは見逃せないものである。
           (テレビ塔を背景に咲き競うバラの花)
 「真夏に咲く花(バラ)は一般に貧弱で…」とどこかの本で読んだ覚えがあるが、それは日本のことで、ここドイツでは67月が最盛期と言って良いだろう。 この国の気候はバラ栽培に適しており、人々は競って年に二千万本も植えるという。「バラほど栽培に簡単な花はありませんよ。植えたら植えっぱなしで良いんです」と隣人も笑いながら言うように、バラの大敵の斑点病やうどん粉病も出ず、アブラムシもつくことなくみごとに咲いてくれるのである。
 
 「ドイツバラ園」で見られるバラの種類は3000に達するという。この園の特徴は個々のバラの花の見事さ、珍しさはさることながら、その他の草本植物や木本植物と組み合わせて素晴らしいバラの庭を造り出す所にある。特に来訪者が散策を楽しむ「バラの道 (Rosenweg)」は40の部分(Station)に分かれ、歴史的・古バラ、ユーゲントスタイルバラ、芳香バラ、蔓バラ(高さ6m、幅65m)、カスケード(懸崖)バラ等々が次々と現れ、人々の目を楽しませてくれる。

 今回我々も数時間大いに楽しんだが、中でも深い印象を受けたのは歴史的バラのセクションで見た(そして香りを嗅いだ)数々の古バラだった。古バラの区域に入ると先ず漂って来る香りの素晴らしさに驚かされる。そして、近年になってあれこれ交配された花とは違う素朴なたたずまいのため、全体から受ける印象が全然異なる。花それ自体が整然と咲き並ばず、横にだらしなく広がっているし、花それ自体の強さも違うらしく、開花してから長持ちはせず、6月一杯で散り落ちてしまうのは残念だ。 Centifolia「百枚の花びら」と 名付けられた、 西暦1600年以前からの長い歴史をもつバラは、まるでキャベツのように沢山の花びらを丸くぎっしりと詰め込んだ形をしており、重そうに頭を下げぶらさがっていたので、写真を撮るのに妻の助けを借りなければならなかった。
       (いかにも重そうな花のCentifolia、西暦1600年以前の古バラ)
 園全体の構成のアイディアのすばらしさは驚くばかり、植物学的・専門的にバラを勉強する「学習路」というよりはむしろ、来訪者が身をもってバラを楽しむ「体験路」とするところに園側の意図がはっきりと見られる。とは言え、ある特定のバラの種類の原種・由来、歴史を調べたり、交配・栽培法、我が家の庭への適用を学びたい人のために、定期的にセミナーが開催されるし、何千冊という専門書を有する図書室も園内に備わっている。
          (「皇帝の林」のみごとなバラの散策路)
 最後の見ものは、テレビ塔の下に広がる「皇帝の林(Kaiserhain))と名付けられたStationで、その規模の大きさ、花の種類の多さから見てこのバラ園の圧巻だ。見事なアーケードの下をくぐり、懸崖バラに感嘆の声を上げ、落ちたばかりの花びらをそっと拾い香りに酔いながら「バラの道」を歩く…。そうしていると、このバラ園の設計者が造園法の技術を駆使しつつ、来訪者の審美的、心理的要求を満たすためにどれほど考慮を重ねているかがよく理解出来る。

2013年6月16日日曜日

空港の寿司カウンター


        (アルカーデン入り口。「きかく」は入ってすぐ左側)
 デュッセルドルフ空港の「エアポート・アルカーデン」には、乗客がショッピングしたり食事をする商店やレストランが並んでいる。そのほぼ真ん中に「きかく」寿司店のカウンターがある。空港側から是非にと懇願され、開店したのは2005年のことだった。
          (午後3時ごろ、客は少なく閑散としている)
 通路の真ん中にあるカウンターなので火を使って料理することは不可能、それで寿司飯とネタは10キロ離れた本店から毎日運ぶということで営業が始まり、その間1日も休むことなく、今年で8年続いている。場所が空港であるのでこの寿司屋も年中無休で営業し、従業員も常時確保しなくてはならないのだ。特に一番大事な寿司を握る職人の確保に苦労すると聞いた。
        (味噌汁をすすり、握り寿司を食べる初老の紳士たち)
 営業開始は10時だが、2人の従業員が9時に出勤し清掃・準備をする。9時半には寿司を握る職人が到着、本店からご飯と魚が届けられ、10時開店と共にぼつぼつお客もやって来る。客が一番多くなるのは夕方5時以降8時近くまでで、働く人も3人から5人に増やさなければならない。週の内繁盛するのは出張ビジネスマンの行き来が激しい水曜から金曜にかけてである。毎晩8時を過ぎて乗り降りの客もまばらになると閉店の9時となり1日の営業が終わる。しかし時には例外もあり、8時過ぎから空腹を抱えた人々がどっと押し寄せることがある。営業時間は守らなければならず、寿司飯もネタも底をついている時はタクシーで本店から取り寄せ、9時までは客に食べさせなければならないのだ。
       (蝋で作った食べ物の見本はドイツ人にはめずらしい)
 メニューは寿司盛り合わせが43ユーロから17ユーロまで5種あり、その内最も出るのは握り5つ、軍艦巻き1つ、鉄火巻き1本から成るメニュー「Sapporo」(22ユーロ)であり、その他細巻き9種、裏巻き5種も揃っている。寿司になじみのない客には、日本レストランにしか見られないガラスケースに入った蝋で作ったサンプルが大いに役立つようだ。事実時にはドイツ語も英語も話さない客も来るので、彼らは一言も話さないでサンプルを指差すだけで欲しいものが注文できるのは便利だ。
            (さて私たちはどれにしましょうか?)
 開店して数ヶ月後「デュッセルドルフ空港ジャーナル」(20061月号)に寿司の記事が出てインタビューを受けた初代の板前Sさんのため、私が翻訳したものがPCに残っていて読み返し懐かしく思った。この記事では、インタビュー記者は空港内カウンターの宣伝はあまり書いておらず、寿司がどんなものか、どうやって作る(握る)のか、正しい食べ方は、寿司職人の訓練・修業がいかに厳しいか、等に重点を置いている。そして結論として「寿司は日本版ファーストフードである」と締めくくり同じ題がついている。彼はハンバーガーやフライドチキン、牛丼等に用いられるファーストフードと同じような意味で考えているのか?この語には「短時間で調理あるいは注文してからすぐ食べられる手頃な食事」という定義があるが、記者は「注文してすぐ食べるべき食事」という点を強調したかったのだ。ドイツにはすぐに食べない寿司がスーパー等に出回っているからだ。プラスチックの箱に詰められ冷蔵はされているが、賞味期限として3日後の日付がついている!「スーパーで寿司として売られているものは、日本の伝統的食文化とはまったく関係のないものです。私が握った寿司はすぐに手に取って食べて欲しいのです」と強調したSさんの言葉から、記者は「寿司はファースト(早く=新鮮なうちに)フード(食べるもの)日本版である」という結論に達したのであろう。
 プラスチック箱に詰め3日後の日付をつけて寿司が売れるなら、「きかく空港店」の寿司職人さんも寿司ネタを届ける従業員諸氏もずいぶんと楽になるだろうに!
          (こちらは握り立て、本物のメニューSapporo)

2013年6月4日火曜日

Wagyu(和牛)の肉


 3月末から18日間入院し2人部屋に入れられた間、20代初めの学生から84歳の建築家まで、入れ替わり立ち替わり合計6人ほどの入院患者と同室で知り合いになり、色々興味深い話もでき退屈することがなかった。

 その中でも、先輩(!)の私に病室のテレビやイヤホーンの使い方等訊ねて来て特に親しくなったのがAlbers氏だった。職業を訊いてみると、もう引退はしたが食肉の輸入・卸業をしており、ドイツ国内またヨーロッパ各地の有名レストランや肉屋に卸しているとか。見舞いに来ていた妻が興味を示し一般人でも肉を買いに行ける可能性があるのか等、いろいろ訊ねた結果、木曜と金曜だけ9時から16時までの間小売りの客でも買えるということが判った。

 空港近くにある小売り用の店は、精肉運搬用のトラックが並ぶ大きな構内の片隅にあり、数人客が入れば一杯になりそうな小さなものである。私の退院後妻は一人で数回出かけ、アメリカ産ネブラスカ牛肉、スペイン産イベリコ豚肉、味が優れていて有名なキコク鶏肉等々買い入れて来た。そして数日前私も初めてその店を訪ねることが出来た。そこで珍しい肉を見た…。

 パックの表示には“Wagyu“となっている。これは「和牛」のことだろうとすぐに想像がつく。そう、Albersでは世界中で有名な「神戸肉」を輸入して卸しているのだ。しかし神戸肉と言っても、日本の神戸からではなく輸入先はオーストラリアだという。日本からの輸入となればキロあたり1000€を超えることになり、とてもビジネスにならないのだそうだ。

 すでに3世代にわたり70年間、黒い但馬牛を育てているのはオーストラリア・ニューサウスウエルズにあるJack Creeks Farmである。ここでは日本と同じように、子牛の時には自由に野外放牧で育て、その後は成長剤を与えたりホルモン処置をすることなく450日間最高の穀物のみを与えて牛を大きくしている。その肉は日本へも逆輸出しているそうだ。


 Albersでは2001年以来輸入したWagyuをヨーロッパ各地に広めているのだが、届け先は恐らく超高級レストランに限られるだろう。当市の肉屋ではとんと見かけない。そこで聞いた話によれば、たしかにWagyu引き合いの話はあったのだが、値段の点で折り合いがつかず諦めたとのこと。それではドイツではどれほどの値段で売られているのだろう?

 「ご主人が写真を撮られるのなら、これをお見せしましょう」と店員さんが出してくれたのがこの2.5kgWagyuパックであるが、これはキロ約200€ということで全部で500€(日本円に換算して約65000円)になる。我々が通常買う割合良質の牛肉はキロ40-50€だから45倍することになり、やはり庶民は足踏みせざるを得ないだろう。

 ラベルに書いてあるMS9+いう数字が目に留まった。これは肉の「霜降り度」を表すMarbring Scoreを意味する(他にもMS5-7, 7-9があり、数字が上がると霜降り度も良くなる)。肉にまんべんなく広がる和牛の脂は、お菓子のマジパンと似て10℃で溶け始め、グリルすれば糖分がカラメル化する。5-6の肉はステーキに最適で片面30秒ほど焼いて、ソース・ドレッシング等全く何もつけずにそのまま食べるのが最高の味だ。7-9 9+Entrecote(両肋骨間の肉)で2㎜ほどに切ってシャブシャブや焼き肉とするのに適している、とAlbersの解説パンフレットに書いてある。

 ラベルにある文字で「アレッ!」と思ったのがAUSKOBEという商標だった。Ausは「出自、出身地」を表す言葉だから、これでは「神戸から来た、神戸産」と解され不当表示になりかねないではないか?それとも「神戸でやっているような牛の育て方をして得た牛肉(オーストラリア産の)ですよ」という意味に取らせたいのか?いずれにせよ思い切った商標をつけたものだ!

 先日娘夫婦が来た時妻が特価で買って来たWagyuの味見をすることができた(ほんの小片だったが!)。その柔らかさは、牛肉を噛んでいるというよりは魚肉(マグロのトロのような)の感じだ。熱したグリル盤で片面30秒焼いたMS5-6は口の中で溶けるようだった。

 日本の某有名レストランで和牛と称して交雑種の肉を提供していた(その他鶏肉やエビのケースもあったらしい)ことが判明した、該当するものを食べたと確認できた人には千円払う、と今日のニュースで読んだ。やはり純粋の「神戸肉」は日本でも高価なのでいろいろな手段を弄する所も出るのだろう。オーストラリアで飼育されている但馬牛は伝統の和牛の味を保つため、いつまでも純粋さを維持して欲しいものだ。
(Albersの「特別オファーボード」には、グリル用やローストビーフのアメリカ肉、スペイン産イベリコステーキ、鶏のササミ、スコットランド産ラム子羊肉等が見られる。すべて100gの€価格)