2014年8月18日月曜日

日本和牛、欧州へ進出


 「Wagyu(和牛)の肉」という題でブログを書いたのは20136月のことだった。私の知人である精肉卸商のAlbers氏がオーストラリア産の和牛の肉を輸入し欧州内に卸しているが、日本産の和牛はキロ当たり1000€にもなりビジネスとしてとても成り立たない、というような内容だった。

 あれから約1年後717日付け経済新聞のHandelsblattに「究極の牛肉 − ヨーロッパで初めての神戸ビーフを販売。輸入業者の賭け」という記事が載った。それによると今回ヨーロッパでもミュンヘンの「和牛マスター」社、デンマークの一輸入業者、そしてデュッセルドルフのAlbers社の三社が日本から直接和牛を輸入し販売することになったという。しかしこのビジネスのリスクは大きい。業者は和牛についてのノウハウを熟知していなければならず、貯蔵期間55日を守り、そして月に10頭分を販売しなければならない、等ハードルはかなり高いところに設定されている。Albersでは最高級品質の肉にキロ420€という値を付ける。これは我が家で買う牛肉の10倍近い値段である。
       (我が家のステーキ用ネブラスカ牛肉、キロ50€弱)
 同じ頃(7月29日)テレビ東京のTV番組「ガイアの夜明け」で「和牛(Wagyu)...その知られざる真相」という番組が放映された。これにより、今まで知らなかった事柄を多く知ることが出来た。日本伝来の貴重財産である和牛は長い間国外不出の宝物であった。それが海外に出るようになったのは20年前のこと。北海道の一畜産業者が「ホルスタイン(牛)、デュロック(豚)、白色レグホーン(鶏)等日本の畜産は外国の銘種によって大きな恩恵を蒙って来たので、今度は世界に和牛を広め沢山の人にうまいものを食べてもらうべきだ」という確信をもって動き出したのがその発端だという。多くの反対と抗議を受け、彼は除名処分も受けたが、それでも100頭以上の牛をアメリカに輸出し、さらに種牛の遺伝子(精液)がオーストラリアに渡った。そこで和牛とアンガス種牛の交配が行われ、肉の質が和牛に近く成長も3、4ヶ月早い交雑種が生まれ、世界270カ国に広まったのだそうだ。そしてそれが格安の値段で日本にも逆輸入され庶民もその恩恵にあずかっているのが現状である。

 高齢化社会で食することが少なくなり国内需要が減少した日本の和牛は2012年以来米国、東南アジアに輸出、新たな市場を求めているが、オーストラリア肉に比べ苦戦を余儀なくされている。その理由は、元々4種しかない和牛原種だが、各地の畜産家は独特の餌を開発し、飼育法にも工夫を施している。その結果やれ松坂牛だ、佐賀牛だ、米沢牛だと全国に約230種の和牛が生まれ、ブランド力の弱い畜産農家は特色を十分に出せず、海外輸出・進出の際お互いが邪魔をし合い、それが足かせとなっているらしい。

 その解決に乗り出したのが精肉輸出卸業「ミートコンパニオン」社である。タイ国バンコックの有名デパートで、各県が競って出している和牛の種類が余りに多くあり消費者に訴える力が弱く互いに足の引っ張り合いをしている現状がTV番組で紹介された。それに比べオーストラリア産は統一マークをつけ、すぐ消費者の目につき売り上げも良いという。そこで日本産にも統一マークを新たにつけようと言う提案がなされ、大手の日本ハム、伊藤ハム、全農等が賛同し決定されたのが上のマークなのである。しかし肝心の但馬牛の神戸ビーフ(エスフード)だけは最初参加しなかった。そんな手段によらなくても自分のところの牛肉は十分売れるという自負があったのだろう。それでも最終的にはそれに加わることになり一段落したということである。
            (鹿児島産、黒毛和種 リブロース)
 2,3日前Albersに出かけ日本の和牛についていろいろ訊いてみた。値段はオーストラリア産とほぼ競えるほどになったという。サンプルを見せてもらったが、それは期待していた但馬牛の神戸ビーフではなく、鹿児島産リブロースとレッテルが貼ってあった。それに肝心の統一マークがついていなかったのはなぜだろう(同社のホームページには見られるが)。いろいろ訊いても売り子の若いお兄さんの答えは要領を得なかった。
                (見事な霜降り牛肉)
 さてこれからの1年、自分では食べる機会はほぼゼロに近いが、欧州での日本和牛ビジネスはどう発展するか大いに興味があるところで、その動きから瞬時も目を離すことができない。

2 件のコメント:

  1. 三千男さん。そちらの和牛現状がよくわかります。残念ながら、いま日本で松阪牛で売っていた大手焼き肉チェーン店で松阪牛に似せた脂の張り方をさせて他の肉を提供していた問題が発覚。利益追求強化が原因だそうです。その店で食べたことのある人に言わせると、松阪牛だと思っていたと、ショックの様子。肉質がよく理解できていない単に名前と財布だけの客が大勢を占める典型だと思います。前に並べばなんでも信じて食べる客の質側にも問題があるのですね。私は、数年前、そこへ行く機会はありましたが、何か用事で行きませんでした。ホッとしています。大阪の山さん

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    1. 確かにおいしい肉ではあるでしょうが、いかにも高価すぎませんか?一体どういう人が、どういうところで食べるのでしょうね?そういう金持ちがある程度存在するので、業者もそれを見込んでビジネスに手を付けるわけで。良いものが出ると、必ずそれに似せたまがいもの(それに高い値段をつけて)が出現するのもお決まりのこと。この記事で紹介されているような高級肉の10分の1ほどの牛肉でもおいしいと食べている我々は、喜ぶべきなのでしょうか、それとも悲しむべきなのか?さてさて、このビジネスも初めは景気よく発表されますが、我が家の知り合いのことでもあり、尻つぼみにならないことを祈るのみです。

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