2013年9月12日木曜日

重工業地帯のまっ只中に


 ボタ山のガイドブックに載っていながら、Halde(ボタ山)という名のついていない山を見つけた。その名は単にAlsumer Berg(アルズム山)となっているが、なぜだろう?我が家から車でわずか30分以内の近場デュイスブルグ市にあるし、評価リストの「絶景」に最高の5点がついていたので、空模様は怪しかったが思い切って傘持参で出かけた。今までとはちょっと変わった山であり、いろいろな点で面白く思った。

 先ず山の下の駐車場に降り立って前方を見ると、塔、煙突、パイプ等々ものすごいスケールの工場群が目の前に立っていて度肝を抜かれた。静まり返って物音一つしないゴーストタウンの感じがした。ライン河畔は左手わずか数分のところにある。河に沿って南に半キロも歩くと山の登り口に着くが、そこには階段はなく、アスファルト舗装の道が500mほど続くのみ。その後、普通の山道を歩いているうちに大粒の雨が降ってきた。

 ライン河畔のアルズムは昔小さな漁村だった。ライン河でもかつては魚が取れ魚市が立ったが、それはデュッセルドルフでも同じだったと聞く。その後石炭の積み出し港にも使われたが地盤の陥没や、第2次大戦で爆撃被害(ルール工業地帯は連合国軍の攻撃標的だった)を受けて村が壊滅、最後の住民が移住したのは1954年のことである。荒れた空き地となった所へ市はあらゆる種類の物を廃棄した。その中には近隣の炭坑からのボタもあったが、戦災後の瓦礫、工場建設から出た建材廃棄物、家庭用・菜園用のゴミが含まれていた。だから、アルズム山はあらゆる種類のゴミ処理場から発生したものである。市がこれを埋め立て土を盛り山にし、植林をして庶民の憩いの場にしたのがアルズム山(海抜70m)である。


 舗装道が終わるともう頂上で、平坦な山道が100mほど南北に延びる。道端に掲示板が立ち「規定の道からはずれないでください。廃棄物から危険なメタンガスが発生しています!」という警告だ。キイチゴの薮がいたるところにあるが、今年は結実期に雨が少なかったためか、実が小さくて水分がすくない。これでは今年のジャム作りは断念せざるを得ない。

 南端の展望台に立って東の方角を眺めれば、手を伸ばせば届きそうな所にテュッセンやクルップの工場が並び、石炭運搬のための鉄道線路やガス発電所、ガスタンク、熱冷却炉も目に入る。北端の展望台にはアルズム村記念の頂上十字架が立つ。そこから眼下に広がる風景を見て我々夫婦は思わず感嘆の声を発した。駐車した時には死んだように静まり返っていた工場が操業を始めていたのだ!重工業地帯の様相はこんなものか、と驚くばかり。遠景には何本かの高炉や煙突が、近くにはコークス製造工場やガスパイプが見える。時折真っ赤な炎が暗い雨空にメラメラと舞い登る。特に印象的だったのは十字架の後に白煙をもうもうと吐く、黒い四角形の「湿式石炭消和装置」(Naßlöschanlage)だった。湿式とあるから、これはひょっとすると煙ではなく、蒸気かも知れない?


 評価リストの「絶景」5点の理由は?それは、快晴の日、山の北側から望む、ライン河がオランダ方面の河口に向かって北に延びるのを背景にした、ここ重工業地帯の景色に与えられたものだ。事実、ガイドブックに載っている写真は実に見事なものである。この日は雨降りで視界が悪く、それを見ることが叶わなかったので、よく晴れた日にもう一度このアルズム山の展望台に来てみたいものだ、と思っている。

1 件のコメント:

  1. 三千男さん。コメント欄を一つ間違えたようです。この欄と思ってください。訂正です。悪い、悪い。大阪の山さん。

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