ルール地方にはかつて多くの炭坑があり、そこから産出される石炭がドイツの工業を支えていたことはよく知られている。エネルギー革命以後、炭坑はすべて廃坑されているものだ、と私は思っていた。ところがデュッセルドルフから車で30分ほどのボトロップ(Bottrop)という町に、まだハニエル(Haniel)という名前の炭坑が一つ残っており、4500人の炭坑夫が年間300万トンの石炭を掘り出している、と聞いて驚いた。この週末にそこを訪ねたのだが目的は炭坑見学ではなく、炭坑裏にある「ボタ山」(Halde)を見るためだった。ボタ山とはご存知の通り、採掘した石炭に混じっている石(捨石)を長年にわたって積んだものが高い山となったものである。ハニエル炭坑のボタ山は126mの高さがあり、ルール地方で最大、最高のものであり、そこにはいろいろ面白い趣向をこらしたものが作られている、とガイドブックで読んだので、ぜひ見てみたいものだと出かけたのだ。
(炭坑独特の「巻き揚げ塔」。トーテムポールの立つ目指すボタ山が右端に見える)
炭坑の正面から車で近づくと前方に高い「巻き揚げやぐら」(Förderturm)が見える。我々は駐車してすぐにボタ山目がけて歩き出した。途中は樹々の生い茂るきれいな森の道で「十字架の道」と名付けられ、15箇所の「留」(Station=足を止め瞑想する場所)が備えられている。ここは受難週の聖金曜日には十字架を担いだ信徒たちが巡礼のように訪れるとこでもある。受難を描いた銅板エッチング画と並んで、炭坑で使われた古い車両や器具も展示されている。
数キロ歩いてやっと大きな十字架のある所まで達する。ボタ山はその後にあった。木は生えておらず短い草で覆われている。急な傾斜を這い上がっている時大きな亀裂を見つけた。これの大規模なものが起こればボタ山の崩壊となり、世界各国(中国、英国、日本等)で起こっているような、何百という民家を飲み込み人命を奪う災害となるのだろう。
頂上に達すると、「苦労して登って来て良かった!」と思わず叫ぶ絶景だ。何キロもの直径をもつすり鉢状の底は800席の円形劇場となっており、演劇やコンサートが催される。縁に沿って立つのは、100本のトーテムポールでバスク人アウグスティン・イバロラの作品だ。材料には彩色した鉄道の古い枕木を使い、自然と工業(インダストリー)の調和を表すものだという。汗を乾かす涼しい風に吹かれつつ360度ぐるりとルール地方の町や工場、森や林を見渡す。
当日は森とボタ山周辺を走破するマウンテンバイクのイベントがあって、近隣の町から何百という自転車愛好家が集まっていた。全長70キロのコースに挑戦する人々だ。
かつての炭坑と大工業を誇ったルール地方には、不要となった施設が壊されずにそのまま残っており、高炉は展望台、ガスタンクは美術館やスキューバダイビング練習場、工場の壁はクライミング練習場というように、他の目的で使うため一般庶民に安価で、また無料で開放されている。このボタ山もその一つと言って良い。「負の遺産」の再利用というところだろう。それがほとんど各町に備わっているので、これからもガイドブックを頼りにいくつか訪ねてみたいものだ。
物を大切にするドイツの国民性がこんなに色々な施設を作り上手く利用しているのでしょうね。
返信削除それにしてもミッチさん、意欲的に(もうそれほど若くはないはずですのに)あちこち出かけて行って、興味深いお話を聞かせてくださって感謝です。これからも元気でお出かけください。
嫌がる老人を引っ張りだすのは誰か、ご存知でしょう?出かける前はおっくうだけど、やっぱり外へ出た方が気分がいいです。今机の上に置かれたガイドブックには20以上のウォーキングコースが載っている!次はどこへ連れて行かれるのか、戦々恐々としています。
返信削除素晴らしい所です!
返信削除大変な思いで登った暁には必ず素晴らしい景色に対面でき最高の気分だったのでは。
それにしても上手く再利用していますね。
旅は様々な発見ができるので止められませんね。 ^^
Miluさん、ちょっとオーバーに書きましたか?!ここの頂上までの距離は大したことはありませんでした。旅というほどではありませんが、以前は終日ワンダーリングしたものです。ある時は国境を越えてオランダのエリカ丘までも。姪の一家に見せたかったのに、気づいたらもう9月、残念!ワインレッドのエリカはもう色あせたでしょう。元大工業地帯のルール地方にも、まだまだ見る所が残っているので、精出して出かけるようにしています。
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