2012年9月1日土曜日

藤本壮介の建築展


 6月初めから3ヶ月にわたってBielefeld Kunsthalleで開かれている「藤本壮介、建築展」を見にでかけた。1971年生まれのこの若い建築家のことは、これまであまり知る機会がなかったが、この機にいろいろ見たり、読んだりして勉強することが出来た。




 「(一軒の)家に住むのは(一本の)木の中に住むのに似ている」という言葉が(その意味はもう一つはっきり解らないが)入り口の大きなボードに書いてある。これの説明のためか、美術館の芝生には子供の遊び場にあるような大きな積み木細工に似た、加工していない生木材を使った家が建てられ、週末は一般の来訪者も中に入れる。「サマーハウスとしてリラックスするために座りに来るでしょうが、住むとなると?私にはやっぱり狭くて息が詰まりそうです」と同市の女性建築家が言っていた。
(「都会は森のようなもの、そして道路は森の中に延びる道」。東欧の国の都市計画のために出された藤本の道路のアイディア)
 
 展覧会には“futurospective architecture“とタイトルがつけられているように、建築というものが将来どんな形を取り得るか、ということをテーマにしている。展示中の120ほどの模型で表されている藤本の作品の多くは、実際に建築するのが不可能なものもある。しかし彼の抱くアイディア・コンセプトと、彼の頭の中に描かれる考え(哲学と言って良いか?)には大いに興味をひかれものがあった。

 元々家という建築物は外界から離れて内にこもるための手段であるのだが、彼はその内と外との境界を取り除き、一つに統合しようとする。家のもつ閉鎖性に開放性を加えて、外と内の調和を図ろうと試みる。彼の作品の一つHouse NAはそのアイディアを東京の街角に実現した例として取り上げられている。狭い敷地しかないので居住面積を得る(所謂「狭小住宅」の)ためには上に延びるしかない。そのためラーメン構造を使い周囲には透明の材料(ガラス)を用いた結果、家の中は居間も台所も浴室も外から丸見えの塔のような家となった。動画に撮って紹介するにはこれで良いが、夜間はすべての部屋にカーテンを引かなければ、入浴も就寝もままならないだろう。

 2時間近く見学した後リアリストの妻は「何か『お遊び』の要素が多くて、実際の生活に使えるのかしら?」と、現実に住む時の状況を考えての意見を言っていた。「これだけ急な階段があれば高齢者はどうする?あちこちに置かれた高い腰掛けなど、小さい子供が登ったら落ちて怪我しないか、毎日心配だわ!」

 美術館の館長も言うように「彼のアイディアから出たものには実際の建築が不可能なものがあるが、将来の建築物の方向性を示すものとして多いに参考となる」のだろう。その意味でも、台湾タワー国際設計競技で最優秀賞を得た藤本のアイディア(300mのタワーに細い棒や棹みたいなものを使っている!)が、実際にはどんな建材で実現されるのか(完成は2017年)、大いに興味あるところだ。

 一緒に連れて行った7歳と4歳の孫たちが、また自分の孫をつれてこの辺りに散歩に来る時「ずっと昔おじいちゃん、おばあちゃんと展覧会で見た珍しい模型の家が、今では普通になってどこにでも見られるわね」と言っているかもしれない。

4 件のコメント:

  1. 藤本壮介師の建築展、興味あります。
    実際に住む事の出来ない家。
    でもこれは彼の理想の家なのかもしれませんね。
    美だけを追求したのかも。。。
    中が丸見えな家は、自然と一体化したいのかも。。。
    またまた、私の妄想が始まってしまいました。 ^^;

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  2. Miluさん、
    これはもう建築芸術の領域ですね。彼にとっては、建てられるかどうかが最重要ではなく、(建築)芸術家としてのアイディア・発想が先ず出発点になるようです。でもテーマが建築である限り、やはり現実に建てられるものになっていかなければならないし…。
    「東京はいろいろな要素を備えた大きな森だ」、とも彼は言っています。その中に住む人にどんな家を提供出来るかを自分の課題にしているとも。

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  3. 近くにモダンな家ができると「どうやってお掃除するのかしら?」と思ってしまうようではダメですね。住みやすい家と建築家の芸術性は相反するものでしょうか。
    でも数十年前に描かれた未来都市のアニメが今大都会では現実のものになりつつあるのですから、人が住む家もどんな風に変化していくのか・・・・
    50年先100年先にこの世にひょっこり現れてその変貌ぶりが見られたら楽しいでしょうに。

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  4. baabaさん、その通り!今日では数十年前には想像もしなかった建築物や道路が出現していますね。終戦後の廃墟から、誰が今の東京の高層ビル群を想像したでしょうか。地上ではなく、高い所を走る都心の高速道路もそうですね。世界で有名になった日本の「団地」も徐々に姿を消し、ニュータウンに様変わり。ほんと、これから数十年でどんな建築物が出てくるのか?楽しみではありますが…。どこまで自分の目で見られることやら。

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