「都会の住民に緑を!」というモットーで始まったのが19世紀初頭のシュレーバーガルテン(Kleingarten小家庭菜園)のプロジェクトであり、そのドイツにおける歴史・発展・普及等については当ブログでも何度か紹介した。
同じような目的で最近各地に起こっているプロジェクトが当市にもある,と聞いて先日出かけてみた。その名は「エコトープ」(独Ökotop,英Ecotope)という。Kleingartenでは各ユニットが平均300平米の区画に整然と用意され、そこには有用植物や野菜、花が植えられている。さらに小さなヒュッテが備えられ人はそこで野菜栽培をしながらお茶をし週末の一時を楽しむのだが、エコトープの場合その外観がかなり違っている。
デュッセルドルフ,ヘアト地区には雑木林と雑草の生える野原16ヘクタール(160,000平米)があり、そこはアウトバーンに向かう車や近辺の工場からの騒音と排ガスに悩まされる場所だった。1986年以来ここをエコトープのプロジェクト地区にしたいとボランティアが集まり働き始め、市の公園課もこれを援助している。
そもそもエコトープとはギリシャ語のオイコス(家)と トポス(場所)を合わせた語であるが、ドイツ語でも英語でもそれをエコの場所,即ち「生態系促進の場」としていることは意義深い。最近日本でも盛んに言われるエコロジー(生態学)という語の意味は、生物(動植物)の環境に対する関係を研究する学問である。
或る晴れた日自転車に乗ってエコトープまで走った。家庭菜園を飾る花も樹木もなく、何か荒野に足を踏み入れた感じがする。自分の領域を主張するようなヒュッテや花の咲き乱れる庭もなく、周囲はかなり荒れたままになっている。至る所に大きなコンポストの箱が作られて、短く切り揃えた薪の山もある。天気の良い午後、咲き乱れる美しい花々や樹木に鈴なりに生る果物を愛(め)でるためにここに来ても落胆するだろう。
少し歩き回ると生態学に基づいて専門家の助言を受けつつ、 特別な植物のための土壌作りとか、ある種の昆虫の成長を促すための設備とか、多くのプロジェクトが行われていることが判る。例を2、3挙げると…。
(1)水はけを良くする砂や砂利の多い地盤を用意し,手間をかけず簡単に育つ植物を育て,多くの種類の昆虫をおびき寄せる一画を作る。(2)大きく開けた日当りの良いスペースの草を年に一二度刈り、以前の農業で痩せた土地の肥料とし、10年ほどで野生の花園とすると、そこは1500種以上の昆虫、蜘蛛の住処となる。(3)開けた緑地のあちこちに幹の長い,手間のかからない強い果樹を植え、そこを3000種以上の昆虫、小動物の集まる場所とする。(4)短く切って穴を開けた丸太を屋根付きの小屋に並べ、もぐらの冬眠場所とし、ハクネズミの日中の隠れ家とする。小さな穴は蜘蛛の産卵場となリ、テントウ虫の越冬場となる。これは聖書に因み「ノアの箱船」と名付けられている。
このエコトープにはまだまだ多くのプロジェクトが行われているが、すべてをここに書くことは難しい。これからも時々訪れて,専門家の話も聞きつつ勉強したいと楽しみにしている。