3月末から18日間入院し2人部屋に入れられた間、20代初めの学生から84歳の建築家まで、入れ替わり立ち替わり合計6人ほどの入院患者と同室で知り合いになり、色々興味深い話もでき退屈することがなかった。
その中でも、先輩(!)の私に病室のテレビやイヤホーンの使い方等訊ねて来て特に親しくなったのがAlbers氏だった。職業を訊いてみると、もう引退はしたが食肉の輸入・卸業をしており、ドイツ国内またヨーロッパ各地の有名レストランや肉屋に卸しているとか。見舞いに来ていた妻が興味を示し一般人でも肉を買いに行ける可能性があるのか等、いろいろ訊ねた結果、木曜と金曜だけ9時から16時までの間小売りの客でも買えるということが判った。
空港近くにある小売り用の店は、精肉運搬用のトラックが並ぶ大きな構内の片隅にあり、数人客が入れば一杯になりそうな小さなものである。私の退院後妻は一人で数回出かけ、アメリカ産ネブラスカ牛肉、スペイン産イベリコ豚肉、味が優れていて有名なキコク鶏肉等々買い入れて来た。そして数日前私も初めてその店を訪ねることが出来た。そこで珍しい肉を見た…。
パックの表示には“Wagyu“となっている。これは「和牛」のことだろうとすぐに想像がつく。そう、Albersでは世界中で有名な「神戸肉」を輸入して卸しているのだ。しかし神戸肉と言っても、日本の神戸からではなく輸入先はオーストラリアだという。日本からの輸入となればキロあたり1000€を超えることになり、とてもビジネスにならないのだそうだ。
すでに3世代にわたり70年間、黒い但馬牛を育てているのはオーストラリア・ニューサウスウエルズにあるJack Creeks Farmである。ここでは日本と同じように、子牛の時には自由に野外放牧で育て、その後は成長剤を与えたりホルモン処置をすることなく450日間最高の穀物のみを与えて牛を大きくしている。その肉は日本へも逆輸出しているそうだ。
Albersでは2001年以来輸入したWagyuをヨーロッパ各地に広めているのだが、届け先は恐らく超高級レストランに限られるだろう。当市の肉屋ではとんと見かけない。そこで聞いた話によれば、たしかにWagyu引き合いの話はあったのだが、値段の点で折り合いがつかず諦めたとのこと。それではドイツではどれほどの値段で売られているのだろう?
「ご主人が写真を撮られるのなら、これをお見せしましょう」と店員さんが出してくれたのがこの2.5kgのWagyuパックであるが、これはキロ約200€ということで全部で500€(日本円に換算して約65000円)になる。我々が通常買う割合良質の牛肉はキロ40-50€だから4−5倍することになり、やはり庶民は足踏みせざるを得ないだろう。
ラベルに書いてあるMS9+いう数字が目に留まった。これは肉の「霜降り度」を表すMarbring Scoreを意味する(他にもMS5-7, 7-9があり、数字が上がると霜降り度も良くなる)。肉にまんべんなく広がる和牛の脂は、お菓子のマジパンと似て10℃で溶け始め、グリルすれば糖分がカラメル化する。5-6の肉はステーキに最適で片面30秒ほど焼いて、ソース・ドレッシング等全く何もつけずにそのまま食べるのが最高の味だ。7-9 9+はEntrecote(両肋骨間の肉)で2㎜ほどに切ってシャブシャブや焼き肉とするのに適している、とAlbersの解説パンフレットに書いてある。
ラベルにある文字で「アレッ!」と思ったのがAUSKOBEという商標だった。Ausは「出自、出身地」を表す言葉だから、これでは「神戸から来た、神戸産」と解され不当表示になりかねないではないか?それとも「神戸でやっているような牛の育て方をして得た牛肉(オーストラリア産の)ですよ」という意味に取らせたいのか?いずれにせよ思い切った商標をつけたものだ!
先日娘夫婦が来た時妻が特価で買って来たWagyuの味見をすることができた(ほんの小片だったが!)。その柔らかさは、牛肉を噛んでいるというよりは魚肉(マグロのトロのような)の感じだ。熱したグリル盤で片面30秒焼いたMS5-6は口の中で溶けるようだった。
ドイツでも美味しい「Wagyu]が食べられるのですね。日本でもオーストラリア産の霜降りが売られています。ドイツの和牛と食べ比べてみたいものです。いつかテレビでエッセンの近くで和牛を育てている農家の話が放映されていましたが、小規模農家なので市場に出回るほどではないのでしょうか。
返信削除我がオットは大の肉好きで死ぬまで肉を食べていたいのだそうですが、ホントいつまでも元気で肉の味を愛でていたいものです。
三千男さん。ベッドメイトの和牛についての話は面白いです。その中、米国ネブラスカ産牛肉の話は懐かしい。30年前、仕事で立ち寄ったリンカーン(ネブラスカ州都)で歴史的肉食の町だと言うので夕食に(私の名づけでインチ肉)アメリカ封筒の広さでインチ厚のステーキ肉を食べた経験が蘇ります。その夜は多少うなされましたね(笑)。霜降りの和肉とそこのインチ肉(まあまあの肉だったけど)はやはり品質が違うのでしょう。嚙み応えがありました。一般のドイツ人(悪いが少々味音痴が多い?)は和牛にはどういう評価でしょう。大阪の山さん
返信削除baabaさん、肉が食べたい、特に厚い牛肉が、という時は、元気で体調もいい時のようです。我が家では2週に一回はステーキを食べていましたが、開店時間の限られたAlbersで買うようになったら、おいそれと手に入らなくなった!と言って、今ではスーパーで買う気はもうありません。日独の夫婦で和牛を育てている番組は私も見ましたが、あのスケールでは趣味の範囲でとてもビジネスにはならないでしょうね。
返信削除山さん、上記の店でネブラスカステーキを薦められたので我が家でも食べてみました。なかなかいける牛肉のようです(インチ厚にはしませんが!)。ドイツ人は肉の味にはなかなかうるさいですよ。まあ、町の有名なステーキハウスはほとんど「アメリカン風」と銘打っていますがね。そんな所へ行くと、小食の我々には太刀打ち出来ないようなもの凄いボリュームのものばかりなので、このところ敬遠しています。
'AusKobe' ist für deutsche Ohren etwas irreführend! Aber das Fleisch von Albers ist großartig!
返信削除ペトラ、やっぱりドイツ人が読んでもAUSKOBEは誤解を与える恐れありですか?
返信削除今度Albersの店へ行けるのはいつでしょう?