「Gペンを使うと英語の筆記体がきれいに書けるよ」と小学生の私に教えてくれたのは明治18年(1885年)生まれで元税関署長をしており英語が達者な祖父だった。明治生まれの人間が知っていた、そして使っていたGペンなるものは、いったい何時頃から日本に入って来たのだろうか?そして何故Gペンと呼ばれるようになったのだろう?
そんな疑問をもっていろいろ調べた結果、現在日本各社のペンの製品にそのまま残っているGの文字について、ペンの製品がA-Zまでありその内残ったのがGだけだったとか、昔日本に輸入されたこのタイプのペンにGの記号がついていたとか、そんな説明を見つけた。しかしそのどれもはっきりした回答を与えてくれるものではなかった。
日本のGペンメーカーはこれを「漫画用ペン(コミックペン)」として生産・販売していることを知って驚いた。宣伝文句は「弾力があり柔らかいため、筆圧により強弱のある線が描けるペンである」というものだ。「書ける」ではなく「描ける」となっていることに注意願いたい。さらに「力をセーブせず太い線、細い線を容易に表現でき、漫画初心者にも扱い易い」とあり、「少年ジャンプ」のため、下絵から細かい所の仕上げまでを描いている作者の動画がインターネットに載っていた。
一方アメリカのYou Tubeではこの同じ日本製Gペンを優れたカリグラフィー(特にCopperplateやSpencerian字体)用ペンとして高く評価している。私もそこで初めてゼブラとかニッコーのGペンのことを知ったのだ。それで日本からすぐに送ってもらって試してみたが(私の場合勿論横文字書きだけだが)、これまでこちらで使っていたpoint penとは比べものにならないほどの書き易さと仕上がりの良さに感激した。日本ではカリグラフィー用Gペンとしては売れずビジネスにならないので、ブームになっている漫画用として宣伝・販売するのだろう。
ペンというものは筆圧を加えれば強く太い線が、力を抜けば細い線が書ける。これまでのペンでも下降方向で力を入れれば太くはなるが、上昇方向の細い線がきれいに書けなかった。日本製のGペンではいわゆるhair line(毛髪の線)という0.3ミリ以下のきれいな線が書けるのだ。それに加え、インキも万年筆用黒インキより“sumi ink“の黒がすばらしいので使うように、とアメリカ人は薦める!良く見ると瓶入りの墨汁を使っている。それで私も「呉竹、墨のかおり」というのをこちらで見つけ水で薄めて使っているが、確かに艶のある美しい黒の文字が書ける。
しかしつけペンは消耗品である。通常のGペンでは漫画原稿3−4枚が精々だという。それを改善するため出来たのが、ワンランク上のプロ仕様のゼブラ社「チタンGペンプロ(金色コーティング)」で、これで10枚以上描けるようになった、という。それだけに値段も通常の3倍の10本2500円する。私はこれとニッコー社の「超研磨Gペン」を合わせ使っているが、まだ数週間のことで正確な寿命比較はできていない。
練習のため連日横文字を書くのだが、手当たり次第ではなく何かまとまったものをと思いラテン語聖書の「ヨハネによる福音書」を選んだ。筆写はまだ13章大学ノート50ページほどだが、書いている間の気持の落ち着くことに満足している。昔の仏教僧のお経や、中世修道士の古文書筆写の時もこんな気持になっていたのだろう、と想像している。
Gペンを使って書く練習の例はYou Tube から豊富に得られ、どれもすごく参考になる。ただし「名人」たちが書く「飾り文字」(flourished letters)だけは真似てみても、今の所とても追いつけるものではない。この段階に達するには何年も、否何十年もの練習が必要だろう。
三千男さん。ラテン語福音書の写しをペンで書くのは優雅ですね。心を平静に、無我の境地で「カリグラフィー」に取り組むことは大人の世界。いい趣味です。Gぺんと言うのは、意味が分からず子どものころ「たくさん書いても字体が変わらず、濃淡も出やすい」筆記用具として貴重なもののイメージでした。ラテン語は西洋文化発祥の起源の一つでもあるでしょうが、書道的な(形状や表意的)美しさも残っている?のでしょうか。ラテン語には全く知識なしですが。大阪の山さん
返信削除無我の境とかかっこいいことを書きましたが、実のところは肩はコリ、目はかすみ、なのです。中世の書記修道僧も言っている「筆写の作業は単調で骨が折れる。背中は曲がるし、目はかすむ,腹も脇も痛むのだ」という言葉がよく理解されます。
削除Gペンの書体とラテン語聖書とはまったく無関係です。聖書のラテン語(ヴルガタ、4世紀)は古典のそれより新しいものですが、Gペンで書くカッパープレート体は17世紀からのものですから、全然合わないわけで。たまたま私がラテン語聖書を選んだだけで、シェクスピアでも現代作家のものでもいいわけです。