週末オルガンコンサートに出かけた。と言っても演奏会場は教会とかコンサートホールではない。普通の家族の住む家で、楽器は電気オルガンでも脚踏みオルガンでもない、れっきとしたパイプオルガンだ。
その家の子息がニューヨークのある家庭でそんなオルガンを見たのがそもそもの発端だった。「これぐらいのものは我が家でも出来るのでは…?」と彼は考えたのだそうだ。ドイツには,規模の大小はあるものの、ほぼどの教会にもパイプオルガンが備わっており、それの建造と修理・補修をする専門会社は170ほどあるので、適当な一社を見つけるのをさして困難なことではなかった。
この規模のオルガンでも建造に3年を費やしたという。普通の住宅と言ったが,オルガンを備え付けるには居間の片隅では無理で、それだけの特別な構造が必要であることは言うまでもない。幸いこの家は3階建てで、玄関を入るとかなりのスペースがあり、最上階まで吹き抜けとなっている。3階まで両側にグルグルと階段が続き各階に踊り場があり、オルガンは2階と3階の間の踊り場に据え付けられた。
幸い我々の隣に座った人がこのオルガンの建造者だったので,これ幸いといろいろ質問した。パイプの総数は338本、鍵盤は一段、ストップ(音栓)は左右それぞれ10個ついている。木材は大部分がドイツトウヒで、鍵盤だけは北ドイツ産の高級ツゲ材を使っている。正面は30数本のパイプで飾られているが,大部分は本体の中に入っている。その様子もわざわざ鍵を開けて見せてもらえた。
さて肝心のコンサートで演奏された曲だが、バッハのパッサカリア等はやはり音のスケールが十分ではなく、教会の大オルガンで響き渡るのを聴くのとは感じが違うことは否めない。当日は独奏だけでなくバリトン歌手も招かれ,オルガン伴奏で何曲か歌った。オラトリオのソロ曲はまあ大して違和感はなかったが、モーツアルトの歌劇ドンジョヴァンニからアリア「カタログの歌」となると一寸首をかしげた。そしてシューベルトのリート「水車屋の娘」や「セレナーデ」と進むと、めったに聴けない珍しい組み合わせではあるが、やはりオルガン伴奏ではいただけないな、と言わざるを得ない。
さて今後このオルガンはどう使われるのか,人ごとながら心配になった。この家は数ヶ月に一度はハウスコンサートを開き愛好者を招待するのだが(註:2014年3月27日のブログ),室内楽が主なプログラムとなるので、将来いつもオルガン曲ばかりを選ぶことは出来ないだろう。このプロジェクトの「言い出し兵衛」の子息は責任を感じるのか、これからオルガンのレッスンを受け練習に励みたい、と言っていた。