2014年10月21日火曜日

Japonisme美術展


 Essen市の Folkwang美術館で「モネ、ゴーギャン、ゴッホ−−日本の霊感」(Monet, Gauguin, van Goch... Inspiration Japan)という展覧会が(2014927日−2015118日)開催されている。

 19世紀半ば、鎖国がとけた日本から欧州に向けて多くの美術・工芸品が流出した。とりわけ芸術の都パリではそれらが重宝され、多くの蒐集家が輩出した。何千何万と集められた日本の芸術作品でもって大きな美術・博物館が設立され、それは今日でも残っている。日本では文明開化華やかなりし頃で浮世絵等は衰退の傾向があった時期に、欧州では日本美術が高く評価されつつあったのは,実に興味深い。

 パリに住む印象派画家たちは江戸末期の絵画、特に浮世絵に惹かれ霊感を受け自らの作品に取り入れた。その作風傾向を表すJaponisme(日本美術品愛好)という新語が出来、フランス語の辞書にも載るようになった。今回の展覧会はそれらの作品を,浮世絵と並べて示し、そこから得られた影響(どのように自作に取り入れているか等)の大きさを伝えるものである。

 「作品に取り入れる」と言っても、その方法や程度は様々であるように見える。
(1)先ず浮世絵そのものを油絵に写し描いたものがある。例 ゴッホの花魁、木 

(2)浮き世絵を自作の一部にアクセサリーのように用いたもの。例 人物画の背景、和船を見る二人の婦人 

(3)広重、歌麿、北斎等浮世絵の作品に用いられる構図(絵の中心に大きな木を描いたり、斜めの線が絵を横切る等)やテーマを借りて描いたもの。例 クールベの浪、ドガの湯浴み 


 その他にも、浮世絵独特の線や平面を組み合わせ、遠近法や立体感が表れず原色をふんだんに取り入れた作品も現れた。例としてボナールやロートレックのポスターが挙げられる。これと浮世絵の歌舞伎役者の絵との類似性を見つけるのは容易である。

 浮世絵は原画を描く絵師、それを木版に彫る彫り師、そしてそれに色を付けて刷り上げる刷り師の共同作業で完成するものであるから、当然上のような線と平面を組み合わせ、独特な色使いの結果となるわけだが、それが西欧の伝統的な遠近法と立体感をもった描写に慣れた当時の画家たちに新鮮な印象を与えたにちがいない。

 このような日本趣味、日本芸術愛好の傾向は19世紀後半の印象派画家だけでなく、20世紀に入ってマティスやピカソ等の作風にも影響を与え続けていることを、同美術展は別に一室を使って展示する。この種のものではドイツでほぼ30年ぶりという今回の大規模な展覧会において、美術史にとって見過ごしに出来ないこのような重要な動きを来訪者は再度学び、大いに楽しむことが出来るのは幸いである。
          (会場内は写真撮影禁止であったので、DVDからの絵を使った)

2 件のコメント:

  1. 三千男さん。絵画や陶器などのジャポニズム(毛色の違った東洋・日本文化)は、ある時期にはパリはじめ欧州文化に大きな影響を与えたのでしょうね。残念ながら、政治、経済、科学、哲学などの分野で、日本は欧米追従型になっていて、まだ脱却できないでいることを無念に思います。でも、欧州での印象派等の積極的な”保守芸術破壊”のエネルギーは心底、敬服しますね。いいご見学をされましたね。大阪の山さん

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    1. 美術史でこういう動きがあったことはもう以前に聞いていましたが、これまであまり真面目に気にも留めていませんでした。でも今回一つの展覧会で、全世界から集められたJaponismeの絵画を見る機会があったことは幸いでした。これでもう少し体系的にこの運動を学び知ることが出来ました。
      とにかく鎖国の解けた国から新しく入って来た美術作品に欧州の芸術界が目を留め、また真摯に受け入れたその態度に大きな驚きを感じます。近年の日本の劇画、マンガの欧州到来とは次元の違う動きですね。

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