この美術展のポスターには代表的な印象派画家モネ、ゴーギャン、ゴッホ3人の名前が挙げられていることを私は先のブログに書いた。その際ゴッホの絵は数枚掲載したが、前者二人について何も書かなかったことに後で気づいた。これは片手落ちだった、と反省をしここに続編を追加することにした。
先ず、印象派の中でも特に「印象(派)」的な絵を生涯の最後まで描き続けたクロード・モネだが、彼もJaponismeにはかなり大きな影響を受けた画家だったことを今回初めて学んだ。彼の家のどの部屋の壁にも所狭しと浮世絵等が飾られているし、自分の妻をモデルにした「日本女性」(la japonaise)という作品も残っている。これは風景画家として名高い彼の作品の中では珍しい、また人物画としても秀作であるという。
中でも彼の最も有名な「睡蓮」の連作にも、日本美術の影響があったことを知り驚く。ハスの花の浮かぶ池をジウェルニーの自宅に作った時には、先ず日本風の橋を設計したという。お手本としたのは浮世絵に描かれた広重の橋だ。
そして数多くのハスの花の絵の構図もasymetric(不均衡、非対称)のものが多く、地平・水平線(ホリゾント)が表れない高い視点から見て描いている。これも当時の日本の美術作品に学んだ点だ。モネの作品についてあれやこれや色々学んだ結果、今度またパリのオランジェリー美術館へ行く機会があれば、彼の睡蓮連作(チクルス)を新しい観点で鑑賞することが出来るような気がする。
ゴーギャンと聞くとすぐにタヒチ島の女性たちの絵を思い浮かべ、Japonismeとはほど遠い画家であるという印象をもつ。しかし彼もかなり日本美術品,特に木版画を蒐集したようで、その影響の下自分の作品に取り入れている。
彼の作風を語る時特に強調されるのはその平面性(独=Flächigkeit)である。立体感や遠近性のない平たい画調と、その結果として、陰というものを全く排した色の使い方、背景や周囲にとけ込むような色の配置に、浮世絵の影響が歴然と見られる。その辺りのことは、Folkwang所蔵のゴーギャンの絵を使って館長がDVDの中で詳しく説明している。
上の二人の画家の他にセザンヌの名前も挙るが、彼が好んで描いた故郷エクス・アン・プロバンスのサン・ヴィクトワールの山は、日本人にとっての富士山に匹敵する聖なる山だったであろう。北斎の富嶽36景やその他の浮世絵画家の描く数え切れない富士山の絵からセザンヌは霊感を得たに違いない。彼の山の絵にも同じ聖なる山に対する特別な思い(畏敬の念に近い感情の現れ)が感じられる。
19世紀後半のJaponismeの影響は次の世代の画家たちに受け継がれ、フランスのみならずヨーロッパ全体の芸術界に、いろいろな形でもって広がって行った。この美術史上きわめて重要な動きを詳しく教えてくれる展覧会は見逃すことの出来ない貴重なものである(最終日2015年1月18日)。