1月の楽しみの一つは毎年開かれる「鉱物の日」(Mineralientag)です。会場は市内のMitsubishi Electric Halle(過去何十年間はPhilips Halleという名前で知られていた)。ここは展覧・展示会の他、コンサート、バレー、スポーツ、講演会等のための多目的ホールとして市民に親しまれています。
さて、鉱物(英=mineral,独=Mineral)とは一体なんでしょうか。私は地中から採取する天然石の類くらいに考えていましたが、辞書の定義では「地質学的作用により形成される、天然に産する一定の化学組成を有した無機質結晶物質」という難しい説明がされています。鉱物は、 鉱石(英=ore 独=Erz)とは違うものである、ということを初めて知りました。石炭、石油、天然ガス等々を含む「利益を目的として、(または金、銀、銅、鉛等金属を有利に採取し得る)鉱床から採掘される鉱物」が鉱石なのです。これからは、しっかり区別して使うようにします。
難しい辞書の定義はともかく、薄暗くした会場に入って先ず目につくのは「天然の無機質結晶体」の数々です。水晶、石英、ざくろ石、蛍石…、名前を教わってもとても覚えきれるものではありません。地中からそのまま掘り出したようなものからチャンと研磨して台座にのせたもの、色とりどりで美しく輝いています。
次のセクションへ行くと原石は姿を消し、それを使って加工したアクセサリー類の陳列です。ネックレス、ブレースレット、ブローチ、指輪、ネクタイピン、髪飾り等々、
原石を切ったり割ったり磨いたり、すなわち加工して作った商品で 特に女性が競って買いそうな品の数々です。原石の加工は素人でも出来ます。かく言う私もアメリカにいた時、ある工房で体験研磨をしたことがあります。猫目石(タイガーアイ)原石を切ってもらいそれを何時間もかけて削り、磨き、別に買った指輪やブローチの台にはめ込みました。初めてとは思えないようなすばらしい作品が出来ました。
そんなスタンドには中年から初老の女性、それに子供たちが沢山集まり、あれこれ物色しています。数ユーロから数十ユーロまでで、値段が比較的安いからです。こういうのをドイツ語でHalbedelstein(準宝石、直訳すれば「半分宝石」!)と呼びます。地中から採掘するものでも、宝石の最たるものはダイヤ、ルビー、サファイア等でしょう。最近南アフリカの鉱山で29カラットのブルーダイヤモンド原石が(価値は数千万ドル)見つかったというニュースがありました。それに比べればこの展示会の品は誰にでも買えそうなお手頃な値段です。
一般の来訪者の他にも、一見してすぐにそれと判る業者の人の姿もありました。スタンドでの質問の仕方から良く判ります。「鉱物の日」(Mineralientag)は別名「鉱物取引会」(Mineralienbörse)とも呼ばれます。留め金がついていない安い、何百、何千本というネックレスが卸され、それに留め金がついてデパートや専門店の店頭に並ぶと付加価値がついて、一体いくらで売られるのでしょうか。
一つ面白いスタンドを見つけました。ここで売られているのは、写真でご覧の通り、野球のボールほどの大きさの白い石です。その名はゲーティトといい、ドイツ語の綴りGoethit(英=ゲータイトGoethite)から判るように、文豪ゲーテの名に由来するものです。彼は文学や政治の分野で活躍しただけでなく、鉱業にも詳しく立派な蒐集(コレクション)を作りました。1809年に初めて発見されゲーテの名をつけられたこの鉱物は、日本語では「針鉄鉱物、水酸化鉱物」と訳されています。
客が一個選ぶと、おじさんが大きなペンチで二つに割ってくれます。中には結晶が輝いています。子供用には5ユーロから、我々の買ったのは22ユーロでした。我が家の玄関のハロゲンランプの下に置くと、その前を歩く度にキラキラ、チカチカ光り、用もないのに行ったり来たりして楽しんでいます!孫に買った腕輪は3個で10€という安さ!我々庶民にとっては、こんな安価な準宝石で十分ですね。