2012年6月21日木曜日

テューリンゲンの森


 
 数日間ドイツ中央部にあるテューリンゲン州で休暇を過ごした。この州名からすぐに「テューリンゲンの森」が思い出されるように、ここは古い森、それもいろいろな種類の樹に囲まれた原始林に覆われた土地として知られている。今回は植物に大きな関心を持つ妻の長年の希望にそって私もついて行くことにした。

 先ず訪れたのはハイニッヒ(Hainich)国立公園にあるBaumkronenpfadで、直訳すれば「樹の梢の散策路」となるだろうか。すなわち森の樹々を下からではなく、上から観察するための地上約20mに備えられた施設である(2005年開設)。さんさんと降り注ぐ太陽の光のもと、ブナやカシ、ボダイジュなどの大木がゆらゆらと風になびく様子を見ながら散策するとき、まるで緑の海と波に浮かんで歩いているような気分になる。風に吹かれてざわめく樹の葉の音を背景にいろいろな鳥がしきりに鳴き交わす声。この高さからは樹や鳥ばかりでなく、その他の昆虫や蝶、山猫などの小動物まで観察することが出来、専門家の研究者、森管理人にも役立つという。この路は車椅子やベビーカーの人でも上がれるし、途中にはモダンな屋根とベンチのついた休憩所も備わっている。

 この散策路の終点にあるのは高さ40メート余の観察塔である。散策路よりさらに高い所から樹の観察をし、また周囲の町や村の遠望を楽しむことが出来る。キラキラと輝く樹の梢のかなた遠くの丘の上には何十基と並ぶ風力発電のための風車が見えた。

 妻のもう一つの希望は、今では珍しくなった自然に生えるイチイを森の中で観察したいというものだった。そのため我々のBehringenの町にあるホテル(中世の城を改造した)から車で1時間半以上も離れたFürstenhagenという村まで出かけた。この日も快晴だったが、深い森の中までは太陽の光はあまり達しない。特徴はよく知っているという妻の言葉を信じつつ、あちこち1時間以上歩き回ったがイチイは1本も見つからない。ほとんど諦めて帰りかけたのだが、せっかく遠くまで来たのだからと、別の路をしばらく歩いた結果やっと数本のイチイを発見した。


 この樹は以前は森の中にも沢山生えていたのだが、木材として上質かつ貴重であるので人が競って伐採した。そしてイチイは強い毒性をもっており、これを食べて馬等の家畜が死ぬことが多かったため森から取り払った結果、稀少な樹木となったのだという。日本古来の名弓や家具にこの木が使われたことは有名である。今日では、園芸種として公園や墓地に植えられ、また盆栽や生け垣の材料としても愛用されている。

 森だけではなく、この地方はどこへ行ってもすばらしい自然に恵まれている。特に360度グルリと遥か彼方の地平線まで見回すことの出来る景色は、我々の住むこの地方ではとても望むことの出来ないスケールの大きさだった。

4 件のコメント:

  1. 三千男さん。大きな、緑あふれる森を堪能され心も体もリフレッシュされたでしょう。奥様もこういう環境が好みでおられるようで、良いですね。日本のある種のご婦人は「ショッピングと賑やかな所」を好みにしていると実感します。休暇にこういう発想が出来る国民性や家庭の在りかた等の考えの違いを感じています。日本にも森はいっぱいあるけど、日本ではおやじさんたちのこう言うことへのノンポリ度もドイツとの違いがあるのかな。反省。大阪の山さん

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  2. 山さん、有名ブランドを求めての買い物旅行とか、各地の旨いものを食べ歩くグルメ旅行とか、人の趣味と目的により旅行にもいろいろあるでしょう。我々貧乏人の場合予算も限られているので、上のような金のかかる旅は極力避けるようにしています(出来れば勿論やりたい!)。精々自然を満喫すること、そして安い料金の美術、博物館を訪れるのが最大の贅沢だ、と思っています。

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  3. 上から眺める事の出来る森、とても楽しそうです。
    今、読みながら色々想像して私も盛り上がっています。
    出来ればお猿さんにでもなって木と木を飛び回ってみたいです。
    でもこれはあくまでも想像の世界、実際は高所恐怖症で足がすくんでしまうかも。。。

    奥様が求めていらしたイチイが見つかり良かったですね!

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  4. Miluさん、
    木の梢の上をスイスイとお猿さんになって飛び回る!すてきな楽しいアイディアですね。他の町の森ですが、そんなアイディアで、木と木の間にロープを張り巡らせ、そこを歩かせる所があり(ターザン風も、一部は自転車で行く所も!)、高学年の生徒から若者が喜んで遊んでいました(もちろん手すりや命綱つきで)。
    ここと同じような「木の梢散策路」を備えている所が、ドイツ国内あちこちにあることがわかりました。
    イチイ探しはもう疲労困憊で、けんかになりそうでしたがついに見つかって、なんとか家庭騒動は避けられました!めでたし、メデタシでした。

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