先週末久しぶりに首都ベルリンへ行って来ました。主な目的は「北斎展」を見るためです。この展覧会は日独交流150周年記念として、Martin-Gropius-Bauで8月26日から10月24日まで10週間にわたって開かれているものです。この美術館は、ベルリン中央駅のあるポツダム広場から徒歩10数分の便利な所にあり、週末のこの辺りは、午前中から徒歩や市内観光バスで見物をする人々で混雑しています。美術館内もすでに切符売り場の前には長い列が出来ていました。
会場の中は、一つ一つの絵をゆっくり見られないほどの込みようです(会場内は展示品を傷めるので写真禁止、その様子は残念ながらご覧いただけません)。展示されている絵は全部で440点ほど、中には初めて日本国外へ出されたものもあります。生涯に何度もその名を変えたこの江戸末期の画家の作品は、春朗、宗理、北斎、載斗等いくつかの部屋に分けてあり、時代によってその作風が変わる様がよく分ります。
なんと言っても圧巻は、為一(いいつ)時代に描いた富嶽三十七景で、そのほとんどすべてが一つの部屋に収められており、ここでゆっくり足を止める人が多くなります。その中には余りにも有名な凱風快晴(赤富士)、神奈川沖浪裏、尾州不二見原等がありますが、日本でも見たことのないこれらの傑作の現物を外国で初めて見るという我が身の経験を面白いと思い、また幸運なことだと感謝しました(何年か前に歌舞伎なるものも初めてドイツで見ました!)。
90歳近くまで生きた一生で3万点以上を描いた北斎の画題の多いのに驚かされます。風景画、人物画、静物画、動植物画はもとより、物語の挿絵、教本(絵の描き方の本)のほかユーモアに富む北斎漫画の部屋も人気の的のようでした。画題の多様さだけではなく、西洋画法の遠近法(透視画法)など彼が学び自分の作品に用いたテクニックの斬新さにも驚かされます。神奈川沖浪裏は、なにか超スロービデオを見るような気さえします。超速シャッタースピードで撮った止まっている写真ではなく、波の一粒一粒がまるで次の瞬間動き出しそうで、波にのまれそうな船の中の人間の叫ぶ声まで聞こえてくるようです。北斎は西洋の印象派の画家(ゴッホ、マネ、ドガ)や音楽家(ドビュッシー)に大きな影響を与えたとも言われています。
展覧会最後の部屋では、北斎やその他の江戸の浮世絵画家を有名にした版画作成を説明する映画(30分)を見せており、ここも終始満員で席を見つけるのが難しいほどでした。元絵を描く画家(絵師)はもちろん重要ですが、その絵を元に木版に彫る彫り師、そしてそれに色を付け刷る刷り師の役目の大切さもよく理解出来ました。そしてその伝統的技術が今の時代にも着実に引き継がれ、我々の良く知っている存命中の有名画家たちも作品に用いていることを学びました。週末の2日間ずっと美術館通いで、ベルリンの他の場所を訪れたり買い物をする時間はほとんどありませんでしたが、随分と意義のある充実した時間が過ごせたと喜んでいます。
日本は随分昔からヨーロッパ人にとって神秘な国として評判が良かったですね。
返信削除イタリアの大作曲家プッチーニもオペラ蝶々夫人を作曲したくらいです。
北斎の絵も日本独特な風景やテクニックは我々も魅了!
ブルー(藍色)の使い方がシャレています。
広重もそうですが、彼らの絵や版画を見ていると漫画の基礎になったのでは?
と思います。
Miluさん
返信削除世界が小さくなった分、国際的な文化の交流も密となったことは嬉しいですね。国宝級の文化財も、世界の各国で見せ合うことができるのはそのお陰、そして平和があるからで、そんな世界がずっと続いて欲しいものです。しかし、あまりに身近になってしまって、神秘さが亡くなってしまってはダメですが…。