2月12日に書いた「記憶術応用」(1)に続いて、さらに中級の「外国語学習に威力を発するハイテクニック、第2円配列」に挑戦した。「これの用途は、ずばり語学である」と「円記憶術」の著者星野隆明は言う。
この方法は準備にかなり時間とエネルギーを使うが、その効果から見るとそれだけの労力をかける価値あり、と言わねばならない。私は役者ではないから英語や独語の長い台詞を覚える必要も気持もない。題材に選んだのはシューマンの歌曲で親しんでいるドイツ語の詩、H.ハイネの「詩人の恋」16曲だった。実はこれ、数年前に一度やったものだが、それ以後記憶の老衰現象が起こってはいないか、ともう一度試してみたかったのだ。
準備として、「円記憶術」に指示されているように直径13㎝の円(ドイツ語を書くので日本語用より大きくした)を書き、赤線で十字を引き4つの象限(域)に分けた。そして第1象限の最上部から逆放射状に、すなわち求心的に詩を分けて書いた。想像出来るだろうが、横文字をこのように書くのは実に厄介な作業だ。第2象限に入ると右から左に、そして下から上に書かねばならず、第3象限の終わりから第4象限の初めでやっと本来の左から右へ書く文となる。
何日かかけて16曲すべてを書き終え、回転マスクも作りいよいよ記憶訓練に入った。このマスクは上の所が1文字分だけ空いていて、最初の文字しか見えない。これをゆっくり回し音読しながら次の行に移る作業を繰り返す。これを数回やると,驚くべきことだが、最初の文字を見ただけで詩の節が次々と出て来るようになり、マスクを動かすスピードも徐々に上がって来るのである。
これまでに8曲の暗記を終えた。記憶力は以前に比べて少しも衰えていないので一安心した。夜ベッドの中で1曲ずつ思い出しながら暗唱するのは楽しい。時に1行でも抜かすと「おかしい!」と気づく。頭の中で円の中の文章の位置が違っていることに気づくからである。円が学習したイメージをコントロールしているからだ。長い語よりも、むしろ副詞、接続詞のund,doch,so,jaというような短い語の場所をしっかり頭に刻み込むのが難しい。
以前この町のオペラ劇場でロッシーニの「セビリアの理髪師」の主役を歌う日本人ソプラノのご婦人が、「イタリア語の台詞を覚えるのが大変!台所で料理している間も目の前の棚や冷蔵庫に,紙に書いた歌詞を貼って覚えるのよ」と言っていた。紙に何行かに書いて覚える(直線配列)より、円配列学習の方が認知スピードが速くずっと効果的であることは、知人のある日本人歌手(男性でテノール)が後日実証してくれた。彼の場合シューベルトの「冬の旅」24曲の歌詞暗記で難儀していると聞いたので、「円記憶術」を紹介した。彼は忙しい中、全曲を円の中に書き見事に覚え,リサイタルでも大きな成功を収めたのだ。
「詩人の恋」を終えたら、同じシューマンが曲をつけた歌曲集、ヨーゼフ・アイヒエンドルフの「リーダークライス」、アーデルベルト・シャミッソーの「女の愛と生涯」の歌詞も覚えて征服したい、と思っている。この2曲ともすでに円の中に書き込んで準備ができている。