2015年2月23日月曜日

記憶術の応用(2)


 212日に書いた「記憶術応用」(1)に続いて、さらに中級の「外国語学習に威力を発するハイテクニック、第2円配列」に挑戦した。「これの用途は、ずばり語学である」と「円記憶術」の著者星野隆明は言う。

 この方法は準備にかなり時間とエネルギーを使うが、その効果から見るとそれだけの労力をかける価値あり、と言わねばならない。私は役者ではないから英語や独語の長い台詞を覚える必要も気持もない。題材に選んだのはシューマンの歌曲で親しんでいるドイツ語の詩、H.ハイネの「詩人の恋」16曲だった。実はこれ、数年前に一度やったものだが、それ以後記憶の老衰現象が起こってはいないか、ともう一度試してみたかったのだ。

 準備として、「円記憶術」に指示されているように直径13㎝の円(ドイツ語を書くので日本語用より大きくした)を書き、赤線で十字を引き4つの象限(域)に分けた。そして第1象限の最上部から逆放射状に、すなわち求心的に詩を分けて書いた。想像出来るだろうが、横文字をこのように書くのは実に厄介な作業だ。第2象限に入ると右から左に、そして下から上に書かねばならず、第3象限の終わりから第4象限の初めでやっと本来の左から右へ書く文となる。

 何日かかけて16曲すべてを書き終え、回転マスクも作りいよいよ記憶訓練に入った。このマスクは上の所が1文字分だけ空いていて、最初の文字しか見えない。これをゆっくり回し音読しながら次の行に移る作業を繰り返す。これを数回やると,驚くべきことだが、最初の文字を見ただけで詩の節が次々と出て来るようになり、マスクを動かすスピードも徐々に上がって来るのである。

 これまでに8曲の暗記を終えた。記憶力は以前に比べて少しも衰えていないので一安心した。夜ベッドの中で1曲ずつ思い出しながら暗唱するのは楽しい。時に1行でも抜かすと「おかしい!」と気づく。頭の中で円の中の文章の位置が違っていることに気づくからである。円が学習したイメージをコントロールしているからだ。長い語よりも、むしろ副詞、接続詞のund,doch,so,jaというような短い語の場所をしっかり頭に刻み込むのが難しい。

 以前この町のオペラ劇場でロッシーニの「セビリアの理髪師」の主役を歌う日本人ソプラノのご婦人が、「イタリア語の台詞を覚えるのが大変!台所で料理している間も目の前の棚や冷蔵庫に,紙に書いた歌詞を貼って覚えるのよ」と言っていた。紙に何行かに書いて覚える(直線配列)より、円配列学習の方が認知スピードが速くずっと効果的であることは、知人のある日本人歌手(男性でテノール)が後日実証してくれた。彼の場合シューベルトの「冬の旅」24曲の歌詞暗記で難儀していると聞いたので、「円記憶術」を紹介した。彼は忙しい中、全曲を円の中に書き見事に覚え,リサイタルでも大きな成功を収めたのだ。

 「詩人の恋」を終えたら、同じシューマンが曲をつけた歌曲集、ヨーゼフ・アイヒエンドルフの「リーダークライス」、アーデルベルト・シャミッソーの「女の愛と生涯」の歌詞も覚えて征服したい、と思っている。この2曲ともすでに円の中に書き込んで準備ができている。

2015年2月16日月曜日

買い物とサービスカード


 「味噌、醤油、みりん、料理用酒、ポン酢、本だし、マヨネーズ、それに新鮮野菜のダイコン、ネギ、サトイモ、冷凍の納豆にかまぼこ、餃子…合計31ユーロ80セントになります。サービスカードはお持ちですか?スタンプ1個押します。」デュッセルドルフ市内の和食専門スーパーのレジでの光景である。この店では20€の買い上げ毎にスタンプ1つ押してくれ、それが30個たまると10キロの米1(20)と交換してくれる。米を取らない場合14€分の買い物ができるが、このカリフォルニア産特選米はどうせ我が家ではいつも買うので、スタンプが溜まれば必ずもらっている。

 単純計算では20÷6000.033(%)の払い戻しであるが、実際には支出額はもっと多くなる。上の場合でも、総額が35€になってもスタンプは1個しか押されない。15-6€ならそのまま、18.5€とか19€になれば,客の方が「20€にするためもう一品買います。」となるか、レジがおまけをして1個押してくれることがある。だから、カードを一杯にするまで実質800ユーロ近くは支払っているのではないだろうか。

 和食、アジア食材の他はドイツのスーパーで買い物をするが、ここでもサービスカードがある。我が家の近所のKでは“Treuherzchen“(信頼のハート)というシステムを何年もやっている。こちらは5€毎にハート1個をくれ、それを台紙に張りつけ30個になったら賞品が出る、というシステムである。賞品は各期間によりいろいろ変わるので、我々客の方もそれが楽しみだ。これまで数年間にこの「ハートカード」で手に入れたものをご覧に入れよう。台所用品から鞄類、蒸気(スチーマー)アイロンまである。

 しかしTreuherzchenでは30枚ハートを集めるとそのまま賞品をくれるわけではない。いつも数種類から10種類ほどの品の中から自分で選び、サービス価格で買うようになっている。その値段は市価のほぼ半分かそれ以下である。各品毎に「50%60%の節約になります!」と記されている。

 考えてみると、10リッターの大鍋、圧力鍋、蒸気アイロン、リュック、カバン類等々、自分ではデパートや町の店で進んで買うような品物ではない。たまたま賞品として目についたので買ったものが多い。でも後悔するものは少なく、けっこうよく利用している。

 今回は5月までの限定期間Zwillinge(ゾーリンゲン双子印)の包丁やまな板が中心で、うちのカードもハートでほぼ一杯になったが、あまり魅力は感じない。我が家で使うのは切れ味の良い日本の包丁ばかりだ。一番高いものは,木炭をつかうグリルスタンドで99€(原価約200€)があるが、これも我が家のバルコニーでは使い難いので、欲しいとは思わない。さてさて思案のしどころだ。









 
 レジでは、「ハートはいりません」という客がけっこういる。あまり人気がないのだろうか。売り子もそれに気づいているのか、欲しいという客には最近買い上げ額より沢山ハート(倍ほど)をくれる。自分の店へ客を呼ぼうとするスーパーの目論みは,あまり成功していないのだろうか。こんなサービスカードシステムで得をするのはこれを上手に使う買い物客なのか。 我々客の心理としては「同じような品を買うのなら、やっぱりサービスカードを出している店へ行って買おうか」という気持になることは間違いないが。

2015年2月12日木曜日

記憶術の応用(1)


 シャツの胸ボケットからメモが出て来た。昨日買い物のために書いた品物のリストだ。以前はそんなメモなしで楽々と買い物をしていたことを思い出した。そう、あれは数年前に「円記憶術」を使っていた頃のことだった。どうやったのか、まったく忘れてしまっていたが、もう一度あれをやってみよう、という気が起こった。さて何から始めるべきか、「マルを描くだけでOK 円記憶術」(星野隆明著、学陽書房)という本を引っ張り出して復習を始めた。

 新書判300ページ余のこの本は、受験やビジネスに成功するための記憶術を説明する。取り扱う範囲が余りに広いのでそれを全部ここで説明することは省き、私に役に立ったものだけを書くことにする。私は先ず上記の買い物リスト記憶のために使ってみた。そのためには星野考案の「円記憶レッスン用チャート」や「日本語マスターチャート」を覚えることが必要だ。

 円の中に50音図が書かれている。濁音、半濁音、拗音は後回しにしておいて基本の50音だけ覚えることにした。その配列法は著者の考案したもので、ご覧の通りかなり不規則に並んでいる。最も基本的・規則的なものは「マ行」と「ナ行」で円の4−1、3−2域を、ま−み−む−め−も(4−1-4-1-1)、な−に−ぬ−ね−の(3-2-3-2-2)のように、左から右へほぼ規則的に行き来する。最後を4-1-4, 3-2-3としないのはなぜか,謎である。

 それがア行、カ行、サ行…と進むとさらに不規則となるがなんとか頭に入れる。そして残りのタ、ハ、ヤ、ラ、ワの場所を覚えれば第一段階は突破できる。これだけでテストとして買い物リストを作って、それを数回なぞった後再現可能か試してみた。

 先ず買うべきもの5:ネギ、オクラ、サトイモ、キュウリ、ニンジンの文字場所をチャート上に見つけ、それを一本の線(赤)で結ぶ(左図)。この場合線がクロスしないように順に結ぶと図のようになる。これを数分眺めると線の伸びる形と品物の名が頭に入る。

 テストを拡張し、さらに5点トマト、タケノコ、レンコン、ナス、ヨーグルトを追加して上と同じように一本の線(青)で結び覚える(右図)。そして先の最終点であるネギとつなげると下図のようになる。これで買い物をすべき10点の記憶形が出来上がった。最後のナスに行く時線がクロスするが大きな問題ではないので、そのままにする。今日の買い物は10点と覚えておいて、どこか1点でも飛ばすと記憶した線の形と違うのですぐ気づき、誤りを正して元に戻ることが出来る。

 以上はテスト例として任意の品物を選んだのが、毎日の買い物の場合同じように、円の中に品物を一本の線でつないだ図形を作り数分眺めて頭に入れると(これは 記憶するための準備として必須である)、 不思議なことだが!町での買い物の場でそれが面白いようによみがえり、書きつけメモなしで買い落としをすることもない。さらに買い物点数が増えても問題はないし、途中から初めても順序を逆にしても結果は同じである。

 「円記憶は映像記憶であり、わずかな繰り返しで長期間記憶出来る」「広い円の中に同心円状に記憶する項目がならび,一度に視野に入れるだけでなく、上下、左右の関係まで情報として捉えられる」と著者は言う。その他「検索が自由自在」「記憶の混同が起きない」「数秒の集中で簡単に定着する」と説明されていることを私自身実体験すると、もうこの記憶術にまったく魅せられてしまった。記憶術を習うために、先ずいくつか「記憶する項目」があることは当然であるが、著者が「数秒の集中で」「わずかな繰り返しで」と言っているように、それが短時間ですませられることも大きな魅力である。(つづく)

2015年2月9日月曜日

マウリッツハイス美術館


 週末の78日(土、日)を利用して、オランダ・デンハーグにあるマウリッツハイス美術館を訪れた。ホテルは同市の一地区であるスへフェニンゲンにあるクールハウスを選んだ。このホテルは19世紀末創業の老舗で、写真に載せた堂々たる建築物は、北海に面した夏の休暇地として有名なこの地のシンボルとなっている。

 チェックイン早々海岸を1時間ほど散策したが、真冬の北海の風の強さと冷たさに身体の芯まで冷やされ悲鳴を上げた。何キロも続く海岸ではブルドーザーが今砂入れの工事をしているが、これは年々海の波にさらわれて少なくなる砂を補給する作業だそうだ。そうしないとやがてこの町の海岸線がなくなり、漁村も商店街も住居地もすべて消滅する危険があるのだ。工事現場に集まるカモメの数と鳴き声に驚く。良い餌が集まっているのか。

 ホテルの前から美術館まで市電でわずか数分、停留所を降りたあたりの建物の立派なことに目を見張る。歴史が感じられる古い建物の間を数分歩くと、「マウリッツハイス美術館」に着く。17世紀半ばに建てられたオランダ古典様式代表作のこの建物は、かつてここに住んだ貴族ヨハン・マウリッツに因んで名付けられた。


 この日のお目当ては言うまでもなく、ヨハネス・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」で、他はさておき館内の15号室に直行する。やはりその絵の前は人だかりがしていて容易に近寄れない。やっと前に出て数分は無言で見つめ「やっと会えましたね」と挨拶をする!44.5x39cmの絵は想像したより小さく見える。その表情はもう何度も見慣れているのでお馴染みという感じだ。しかし全体の色調は、いろいろな画集で見た印刷されたものよりややくすんで見えた。現代の印刷技術ではむしろ鮮やかな色になるのだろうか。それだけに本物に接して今まで気づかなかった明るさと陰影がはっきりと目に入り、光と影の天才フェルメールの良さを再認識する。

 さして大きくない美術館だが,他に「デルフトの眺望」と「ダイアナと侍女たち」があり、フェルメールの作品は計3点となる。特に前者は、人物画がほとんどの彼の作品中唯一の風景画であり、その傑作に用いられた油彩画法の多様さについて、オーディオガイドの説明を聞いて多くを学んだ。後者は彼の初期の作品で、カトリック派に改宗して間もなくの時期に聖書から選んだ宗教的なテーマを取り扱っている。
 
 その他、レンブラント(テュルプ博士の解剖学講義)、ポッテル(雄牛)、ボルヒ(喜ばしくない訪問者)等々17世紀オランダ巨匠の名画の数々を、あたりが暗くなるまでゆっくり半日を費やしながら鑑賞したマウリッツ美術館であった。
 
 帰路館内のショップに立ち寄る。想像していた通り、壁掛けにナプキン、しおりにマグネットピン等「真珠の耳飾りの少女」の絵を使った「みやげもの」が沢山売られていた。何か名画が冒涜されているような感じがしたが、私自身やはり何か記念に欲しいと思い、こんなものを購入してしまった。長年集めているエスプレッソカップの蒐集に加えたいと思ったのだが、許されるだろうか?

2015年2月2日月曜日

やったぜ、レオナード君!


 昨日(日曜)午後レオナード君が日本語の授業に来た。いつもは土曜にやっているのだが、当方に来客があったので変更したのだ。とにかく彼は病気の時か我々の不在の時以外絶対に休まない。着くなりすぐ嬉しそうな顔で「いいニュースが二つあります」という。やっぱり、合格したのか?!そう、第一のグッドニュースは日本語能力試験2級合格の通知だった。(1月14日のブログ参照)

 2年余で日本語52級をストレートで制覇したわけだ。今回は最高点ではなかったがとにかく十分合格ラインに達していた。「先日勉強した『かねる』という言葉も試験に出ました」という。そうすると、ここでやることもまんざら無駄ではないのだ!それはこんな例だった。

 「この問題は難しすぎて、私には出来かねます。」こんな「かねる」については広辞苑には何の説明もない。新潮国語辞典で「動詞の下に付いて『できない』の意」という短い説明が見つかった。一番役に立ったのは「外国人のための基本語用例辞典」だ。「そうしようと思っても、そうすることができない、という意味を表す。話しことばで、ていねいにやわらかくことわるような時に多く使い、ふつう、ひらがなで書く」と丁寧な説明。念のためSharp電子辞典Papyrus(和−独)で調べると「不可能・困難・ためらい」nicht könnenとあり、そこまではいいのだが、最後に「彼は何でもし兼ねない」という余計な文章がついている。「かねない」は「かねる」とは別の意味をもつからここには載せるべきではない。とにかく「かね」という語尾の語ができないことを表し、「かねない」という否定の語尾のある語が可能性を表すというのは興味深い点だ。「この寒さなら、明日は雪が降りかねませんね」は「降ることもある、可能性がある」という肯定の意であり、「…しかねます」が否定になる!外国人には混乱を起こしかねないやっかいな用法だ。

 第二のニュースは、リアルタイムで見られる日本の無料TV番組が見つかった、と。コンピューター会社でバイトが出来るくらい知識があるL君には、いつも我が家のPC問題の解決をしてもらっている。リアルタイムとはいえ1分ほどのギャップはあるが、中々便利だ。しかししばらく見て、途中に入るコマーシャルの多さにうんざりし、もうこれからは止めようと思った。以前にも中国経由で似たようなものを紹介されたが、すぐに見られなくなった。やっぱり違法放映なのか、今回も長続きするかどうか疑問だ。

 とにかくL君、余す所1級の試験のみとなった。すでに新年になってからもうその準備の本持参でここでの練習を始めた。また難問の一例。

 「あなたには感謝こそすれ、恨みを抱くなんてことはない」とか「感謝の心こそあれ、恨みの気持はない」という例文を持って来た!「こそ」は強調の語であることは明らか「あの人こそ、これこそ」。しかし、こその次ぎに来るすれあれはどう説明するのか?感謝をする、感謝の心があるから出たものだろうが、なぜすれあれ、と動詞の仮定形になるのか?「已然形=仮定形で中止し、一応の肯定を表して,反対の思想を導く」(新潮国語辞典)くらいが適当な説明か?「感謝する(肯定)、だから恨むことはない(反対の思想)」という風に。後半は必ず強い反対の文になる。

 「こういう言い方,日本人は日常会話で使うのですか?」とL君。うーん、どうかな?使わないことはないが、まあ、あまり言わないでしょうね。書き言葉、文章には出て来るだろうから、しっかり覚えておいて、と一応締めくくった。1級にもなると,出題者の先生方も例文を探し出すのに苦労されるでしょうね。