10月20日、ロンドン経由午前9時に成田空港に到着した時、かなり激しい雨が降っていた。台風26号に続き27号も接近していたためで、10月に入っての台風の連続襲来は珍しいとのこと、不運とあきらめるしかない。空港駅から千葉駅を通り、外房のほぼ先端の町鴨川が第一日目の目的地だ。直接首都東京に入る前に、どこか房総半島の町を訪ねてみようという意図から計画したのだった。
雨は途中ますます激しく音を立てて降り始めた。JR千葉で勝浦行きに乗り換えてしばらくすると、「豪雨のため、この列車は茂原で運転休止とさせていただきます」というアナウンス。おいおい、冗談じゃないよ!と抗議しようにも天候では相手が悪い。仕方なく茂原−鴨川間はタクシー2台を1時間半も走らせる羽目になった。我々一行は子供3人を含め計7名なのだ。幸い、房総半島の山間部と海岸沿いを走るドライブは、それなりに楽しめるものだった。
鴨川シーワールドホテル着は3時頃、こんな荒れた日には客も少ないだろう、とふんでいた予想は見事はずれた。日曜日のこともあり満員盛況なのだ。電車は全面運休なのにみんなどうやってここまで来たのだろう?早速チェックインした部屋は10畳ほどの日本間、ドイツ人の娘婿や孫たちにはまったくの初体験だ(特に畳の上の布団は)。それよりも彼が感嘆したのは、窓から見える房総半島の岸に押し寄せ砕け散る波の雄大さだった「こんな素晴らしい景色の部屋を予約してくれて!」と、しきりに感謝された。でも、ここは全室海に面しているのだ!
なぜ「シーワールド」を選んだのか、インターネットで偶然見つけたのか、そのきっかけは忘れてしまった。しかし、それは全く正解であった、と思う。このようにスケールの大きい、そして楽しいプログラムを備えた施設は世界でも少ないだろう。メインは、数千人の観客を一堂に集め、イルカ、シャチ、アシカ、ベルーガのパーフォーマンスを、それぞれ30分ずつ午前も午後も見せるプログラムだ(その他水族館の水槽の魚も美しくバラエティに富んでいる)。それぞれの演技を見て、順に「エレガンス」「ダイナミック」「愛らしさ」「幻想」という言葉が浮かんだ。手に汗握り、笑いを誘い、感嘆の声を上げ、夢心地にさせられる数時間は、日頃の苦労もうさも忘れさせてくれる。こんな大型のそして数多くの海の動物を、人間のパートナーとしてよくここまで慣らしたものだ、と感心させられる。何年もかけて日々の訓練のたまものとしか思えない。その間には死んだ動物もいただろう、そしてまた新しい演技者(?)も加えられただろう。観客が去った休み時間には、トレーナーが付きっきりでシャチ(新人?)のトレーニングを続けていた。
そんな楽しさの合間にふと考えた。太平洋沿岸にそって、あの福島第一原発から房総半島のここまでは精々350キロの距離である。汚染された海水はこの辺りまで流れてくるのだろうか、シーワールドの海洋動物や魚類には影響ないのだろうか。それともその辺りの対策はすでに十分にとられており、安全性が確保されているのだろうか、そしてこのような施設でエンターテーナー(!?)として一生を送る動物や魚は本当に幸せなのだろうか、等々。楽しさと平和さのうちに、そんな思いが頭の中を行き来した。