日本ではオフィス街のお昼時に、レストランの前に順番を待つ人の長い行列ができることはまれではありません。また評判の店先は驚くほどの長蛇の列となり、「待ち時間30分−1時間」という立て札まで出ますね。私も新宿のドーナツ屋さんでそんな光景を目にしたことがあります。
ドイツ語にSchlangeという語があり、元来の意味は「蛇」ですが、日本語と同じように「長蛇の列を作る」という意味にも用いられます。ここデュッセルドルフの町では、食べ物屋の店やレストランの前で順番待ちの列ができることはほとんどありませんが、私の知っている限りでは、Altstadt(旧市街)に2軒だけそんな店があります。一つはオランダ系のpommes frites(フライドポテト)の店と、もう一つはイタリア系アイスクリーム屋Pia Eisですが、開店している時は必ず10−20人が並んでいます。これはいずれも味がおいしい上にすごいボリュームサービスの店ですが、どちらも店頭で買ったら「お持ち帰り」をする店です。
ちゃんと中に座って食べるレストランで列のできるのは2軒、「丸安」と「なにわ」で、どちらも日本レストランです。「丸安」はお寿司専門ですが、寿司職人が握るのではなく、自社の工場でロボットが握り、セロファンに包んだものを店に並べて売ります。これがドイツ人にうけて終日お客の列が絶えません。平日でもお昼時には、立派な背広やスーツのサラリーマン、ウーマンが我先にと押し掛けます。この店のあるシャドーアルカーデンのショッピングモール地下では、他の食べ物屋の前には客がちらほらいるだけの時にも、「丸安」前だけは客でごった返しています。
もう1軒はラーメンと中華料理の「なにわ」で、ここは待たずに入れることはまず絶対ない店です。店内はカウンターとテーブルを合わせて20数人も入れば一杯となりますが、店の外には「待ちベンチ」が置かれ、店内と同じくらいの数の客がいつも待っています。この「待ちベンチ」には工夫がしてあり、寒い冬には下にパイプで暖かい空気を通し、客のお尻を快適に温めてくれます。驚くべきことに、そんな「待ち」に慣れていないドイツ人客(全体の7-8割を占める)までが不平も言わず根気よく、ある時には半時間も待っています。安い値段でボリュームたっぷり、そして味も天下一品とくれば、それだけ待つ価値のある店だ、と皆が認めているからです。待っている間にウエートレスが外まで来て、メニューを配り予め注文を取り、順番が来て中に入ればすぐに料理が運ばれる、というサービスの良さも評判を取っています。
店長のKさんは近々隣の店が空くのでそちらへ拡張したい、と言っていますが、店内の収容力が倍加すると有名な「待ちベンチ」が寂れ(?!)宣伝効果も薄れる恐れがあるのでは、と心配しています。路面電車の乗客も街を行く通行人も、この列を見て「一体なにを待っているのだろう?」と皆不審がり、理由が判ると「そんなレストランならおいしいに違いない、私も一度入ってみよう」とやって来る人が多いからです。